植物が生長するのに欠かせない養分である窒素。
しかし、硝酸性窒素を体内に摂取することで健康への悪影響があります。

今回は、硝酸性窒素とはどのようなものなのか解説していきます。

硝酸性窒素とは

硝酸性窒素(NO3-N)とは、生物の体を作っているタンパク質の主要要素でもある“窒素”が酸化されて作られるものです。
窒素は空気中にも大量に存在しています。植物が生長するためには、窒素が必要ですが、空気中の窒素は吸収することができないため、土の中から吸収していきます。
そのため、化学肥料には窒素が大量に含まれているのです。

この化学肥料に含まれた窒素が土中で微生物などにより参加されたのが硝酸性窒素です。
土中の硝酸性窒素が地下水に流れ込み、水道水源として使われることで、私たちの生活に届きます。
現在、水道の約26%が地下水源を利用しています。

日本の硝酸性窒素

硝酸性窒素はチアノーゼ(窒息状態)を引き起こしたり、体内で発ガン性を示す物質に変化したりと、人体にとても恐ろしい影響を及ぼす悪質な物質です。
環境省が1994年から3年がかりで河川・湖沼・沿岸部・地下水の硝酸性窒素の汚染実態を調査したところ、特に地下水の汚染が深刻で、全国5548ヶ所のうち259ヶ所で硝酸性窒素の飲み水基準値10mg/lを上回る数値を示しています。
また、1994年の水道統計では、上記の基準値10mg/lを上回る「浄水場」は3件であったのに対して、1997年には12件とわずか3年の間で9件も増加しています。実は、現今の「浄水場」はこの硝酸性窒素を除去する機能は備えてはいないのです。

WHO(世界保健機関)では、亜硝酸性窒素(硝酸性窒素が還元されてできるもの)に よる動物実験を行った結果、新たな毒性を発見、1998年1月、飲料水質ガイドラインとして、新たな基準値を制定しました。
これを受けて、日本でも 1998年6月、水道水質基準として0.05mg/lという非常に低濃度の基準を異例の早さで制定しています。

また、窒素は水源を「富栄養化」させる原因にもなります。
この富栄養化は水源の藻の大量発生やアオコや赤潮などを引き起こします。
これら藻類は有機物を発生させ、さらにこれが水道水の消毒に用いている塩素と反応することで、トリハロメタン(発癌性物質)を大量発生させる原因にもなっています。
アオコが発生させる青酸カリよりも強い毒性をしめすミクロキスティン-LRという物質も産出させるなどのさまざまな害を及ぼしています。
この物質も硝酸性窒素と同様、浄水場で取り除くことはできません。

硝酸性窒素が健康へ与える悪影響

硝酸性窒素には、以下のような様々な毒性があります。

メトヘモグロビン血症になる

私たちの体は、約2/3が水でできています。
その体内に、硝酸性窒素を含んだ飲料水が入ると、体内でメトヘモグロビン血症という、死にもつながる酸素欠乏状態を引き起こします。

血液の中で、生命を維持するために酸素を全身に運んでくれているのが、赤血球中に含まれるヘモグロビンという物質です。
ところが、血液中に亜硝酸性窒素が入ってくることで、このヘモグロビンは酸化されてメトヘモグロビンという、酸素を運ぶ能力のない物質に変化してしまいます。
通常、このメトヘモグロビンは、体内の還元酵素により、また通常のヘモグロビンに戻されます。
しかし、大量に亜硝酸性窒素が血液中に混入してくることで、 酵素はその働きが追いつかなくなり、結果的にメトヘモグロビンが血液中に大量に存在することになって、体内の酸素が欠乏した状態になるのです。
この状態を メトヘモグロビン血症と呼んでいます。また、慢性的に大量に硝酸性窒素を含む水を飲むことで、慢性貧血状態をも引き起こします。

発がん性

1987年の英国疫学調査結果では、飲料水中の硝酸性窒素が高い地域では、胃ガンの発生率が高いと報告されています。
英国Workshop town(人口約3万6千人)では、飲料水中の硝酸性窒素濃度が平均約20mg/lと高い値を記録しており、この地域の住民の胃、食道および肝臓の発ガン死亡率は、通常の1.25倍~5.72倍と高い値を示しています。

また、強い発癌性物質として、硝酸性窒素から生成されるN-ニトロソ化合物が知られています。
硝酸性窒素は体内で亜硝酸性窒素に還元されたのち、体内でアミン (アンモニアに近い物質)などの有機物と反応してN-ニトロソ化合物を生成します。
この亜硝酸とアミンとの反応には胃の強い酸性条件が適しているといわれ、飲料水中の硝酸性窒素の高い地域では、胃ガンの発生率が高いという疫学的結果も報告されています。

まとめ

窒素は植物が生長するのに欠かせませんが、化学肥料に含まれた窒素が土中で硝酸性窒素となり、水道水源となる地下水にまざることで、私たちの生活に届きます。

硝酸性窒素を体内に摂取しすぎると、メトヘモグロビン血症になったり、発がん性が高くなります。
硝酸性窒素は加熱しても消えないどころか、反対に濃縮されてしまうので、乳児に与えるミルクには井戸水を使用しないようにしましょう。